共働きで頑張っているのに、なぜ?高校無償化の所得制限がおかしいと感じるそのお気持ち、よく分かります。この記事では制度の仕組みから不公平感の理由、そして今後の展望まで、その疑問に少しでも光を当てることができれば嬉しいです。
【忙しい方へ:要点まとめ】高校無償化の所得制限は、特に共働き世帯が不利になりやすい仕組みや、収入が少し超えるだけで支援がゼロになる「働き損」の問題から「おかしい」と言われます。ですが、希望もあります。2025年度からは所得制限が事実上撤廃される大きな転換期を迎えるのです。この記事では、その詳しい理由と今からできる対策を、一緒に見ていきましょう。
所得制限に「おかしい」と感じる方へ|まず知るべき制度の基本

夫婦で力を合わせ、お子様の将来のためにと頑張ってきた。それなのに…。お子様の高校進学を考える中で、改めて「高等学校等就学支援金制度」、いわゆる高校無償化の所得制限の壁に直面し、やるせない気持ちになっていませんか。
「共働きで頑張ってきたのに、なぜうちが対象外なんだろう…」その疑問やもどかしさを解消するため、まずは制度の基本と、これから起こる大きな変化について、一緒に確認していきましょう。
この記事で分かる、制度の全体像と2025年からの変更点
高等学校等就学支援金制度は、家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが安心して学べる機会を保障するための大切な制度です。
(参考: 文部科学省「高等学校等就学支援金制度」)ところが、現在の制度には所得による線引きがあり、多くの方がその基準に疑問を感じています。
まずは、現在の制度と、間近に迫った変更点を表で見てみましょう。
項目 | 現行制度(~2024年度) | 2025年度(移行措置) | 2026年度以降(予定) |
---|---|---|---|
所得制限 | あり(世帯年収目安 約910万円) | 事実上撤廃 | 恒久的に撤廃 |
対象者 | 所得制限未満の世帯 | 全ての高校生のいる世帯 | 全ての高校生のいる世帯 |
支援内容 | 公立授業料相当(年11.88万円)など | 従来対象外世帯にも「臨時支援金」を支給 | 新制度に移行 |
このように、長らく続いた所得制限は、2025年度を境に大きく変わることが決まっています。この変更は、これまで対象外だったご家庭にとって、家計に直結する大きなポイントです。
我が家は対象?まずは所得制限の基本から正しく理解しよう
「年収910万円」という数字が一人歩きしがちですが、実はこの金額、あくまでモデルケースにおける“目安”に過ぎません。実際の支援対象の判定は、額面の年収ではなく、より複雑な計算で行われることをご存知でしょうか。
判定の基準となるのは、保護者全員の「市町村民税の所得割額」です。具体的には、以下の計算式で算出された金額が基準値(304,200円)未満であるかどうかが問われます。
- 判定基準の計算式
(市町村民税の課税標準額 × 6%) - (市町村民税の調整控除の額)
この計算式が意味するのは、同じ年収でも、扶養している子どもの人数やiDeCo(個人型確定拠出年金)への加入状況といった、各ご家庭の所得控除額によって結果が変わるということ。そのため、「うちは年収980万円だから絶対に対象外」と諦める前に、ご自身の正確な課税情報に一度、目を通してみてはいかがでしょうか。
運営者が経験した、子どもの進路と教育費のリアルな悩み
実は、この記事を書いている私も、二人の子どもの教育方針や費用について、悩み、試行錯誤を繰り返してきた母親の一人です。上の子が小学生の時に成績が急降下したことをきっかけに家庭学習に本気で向き合い、親子で伴走して偏差値を70まで上げた経験があります。
一方で、下の子は学校という環境自体が合わず、不登校になりました。その経験から、学力という一つの物差しだけでは子どもの幸せは測れないと痛感し、通信制中学という「みんなと違う道」を親子で選びました。
だからこそ、所得制限の壁に理不尽さを感じる保護者の方の気持ちも、偏差値や成績以外の道を探す方の不安も、そのどちらの気持ちも、痛いほどよく分かります。この記事が、少しでもあなたの心を軽くする手助けになればと願っています。
なぜ不公平?所得制限が共働き世帯に厳しいと言われる3つの理由

「どうしてうちだけが?」そんな風に感じてしまうのは、無理もないことかもしれません。「高校無償化の所得制限はおかしい」と感じるその気持ち、決してあなただけではないのです。多くの方が抱くその不公平感の背景には、制度が持つ構造的な問題が存在します。
特に、夫婦で力を合わせて家計を支えている共働き世帯にとって、厳しいと感じられる点が少なくありません。その不公平感の正体は、主に以下の3つの理由に集約されます。
年収910万円の壁が生み出す「あと少しなのに」という働き損
所得制限の最も大きな問題点が、いわゆる「働き損」や「クリフエッジ(崖)」と呼ばれる現象を生むことです。これは、世帯年収が基準額をわずか1万円でも超えた途端、年間約12万円(私立高校なら更に高額)の支援が完全にゼロになってしまう仕組みを指します。
- 年収910万円の世帯 → 年間118,800円の支援を受けられる
- 年収911万円の世帯 → 支援額は0円
この「0か100か」の極端な線引きは、収入を増やすための努力が、かえって世帯の手取りを減らすという理不尽な逆転現象につながりかねません。パートタイムで働く時間を調整したり、昇進をためらったりするケースも聞かれ、真面目に働く意欲を削いでしまうという声が上がっています。
納税額と受けられる支援のアンバランスさに募るもどかしさ
所得制限によって支援の対象外となる世帯の多くは、決して富裕層ではありません。日々の生活費や将来のための貯蓄、そして社会保険料などの負担を抱える、ごく普通の中間層です。
多額の所得税や住民税を納めているにもかかわらず、子どもの教育という最も基本的な公的支援から除外されてしまう。この現実に、「なぜ自分たちの税金が、自分たちの子どもには還元されないのか」という根源的な不満が生まれるのは当然のことです。
まるで、ゴールテープの直前ではしごを外されたような気持ちになりますよね。この受益と負担のアンバランスさが、社会全体への信頼感を揺るがす一因となっているのです。
東京・大阪で先行する「住む場所による教育格差」の問題
国の制度とは別に、自治体が独自に授業料支援を行っているケースがあり、これが新たな不公平感を生んでいます。
特に、東京都と大阪府では、2024年度から私立高校の授業料支援における所得制限を独自に撤廃しました。これにより、両都府に住んでいれば、世帯年収にかかわらず多くの私立高校の授業料が実質無償化されることになったのです。
この先進的な取り組みは、その地域の住民にとっては朗報ですが、同時に「住んでいる場所によって受けられる教育支援が違う」という深刻な地域間格差を生み出しました。同じ日本に住みながら、郵便番号が違うだけで支援内容が変わる状況は、「教育の機会均等」という理念そのものを揺るがしかねない問題だと言えるでしょう。
所得制限の壁は越えられる?今からできる対策と制度の未来

とはいえ、ただ不満を言っていても家計は楽になりませんよね。制度への不満を感じつつも、今まさに高校受験を控えるお子様がいるご家庭にとっては、「何か今からできることはないか」という切実な問題があります。
ここでは、所得制限のボーダーライン上にいる方が検討できる具体的な対策と、希望の光である制度の未来について解説します。
所得判定額を合法的に下げるiDeCoの活用法とその注意点
もし所得制限の基準をわずかに超えている場合、iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用が有効な手段となり得ます。iDeCoの掛金は、全額が「所得控除」の対象となるからです。
- 所得控除とは?
所得税や住民税を計算する元となる「課税所得(課税標準額)」そのものを減らすことができる仕組み。 - なぜiDeCoが有効か?
その理由は、就学支援金の所得判定が、この「課税所得」を基に行われるためです。iDeCoで年間20万円を拠出すれば、課税所得を20万円下げることができ、結果として所得制限の基準を下回る可能性が出てきます。老後資金の準備と教育費対策を両立できる、賢い選択肢の一つと言えます。
ふるさと納税は対象外?意外と知らない所得判定の仕組み
節税対策として人気の「ふるさと納税」ですが、残念ながら就学支援金の所得制限対策にはなりません。これは、ふるさと納税がiDeCoとは異なる仕組みの控除だからです。
控除の種類 | 仕組み | 代表例 | 就学支援金への影響 |
---|---|---|---|
所得控除 | 課税所得から差し引く | iDeCo、生命保険料控除 | あり(有効) |
税額控除 | 算出された税額から直接差し引く | ふるさと納税、住宅ローン控除 | なし(無効) |
ふるさと納税は、あくまで計算された後の税額から引かれる「税額控除」。所得判定の基準となる「課税所得」自体は変わらないため、いくら寄付をしても判定には影響しない、という点を覚えておく必要があります。
【朗報】2025年度から所得制限は事実上どう変わるのか
そして、最も重要な情報が、2025年度から所得制限が事実上撤廃されるという国の決定です。これは、長らく続いてきた不公平感を解消するための大きな一歩と言えます。
2025年度の具体的な措置
- 年収約910万円未満の世帯: 従来通り「就学支援金」が支給される。
- 年収約910万円以上の世帯: 新たに「高校生等臨時支援金」という名目で、就学支援金と同額(年11.88万円)が支給される。
この移行措置により、2025年度は所得にかかわらず、全ての高校生のいる世帯が公立高校の授業料に相当する支援を受けられることになります。さらに2026年度以降は、所得制限を恒久的に撤廃する本格的な制度改革が予定されており、まさに今、制度は大きな転換点を迎えているのです。
もしもの時に頼れる「家計急変支援制度」も知っておこう
今後の制度変更とは別に、現在の制度にも「もしも」の時に頼れるセーフティネットが存在します。それが「家計急変支援制度」です。
これは、保護者の失職や倒産、病気など、予期せぬ理由で家計が急変し、収入が激減してしまった世帯を対象とする支援です。通常の所得判定とは異なり、急変後の収入見込みで審査が行われます。(詳細: 文部科学省「家計急変支援制度について」)
すぐに利用する制度ではないかもしれませんが、「万が一の時にはこうした支援がある」と知っておくだけでも、少しだけ心が軽くなるかもしれません。困った際には、まず在籍する学校の事務室へ相談してみてください。
高校無償化の所得制限で多くの方が抱く疑問と、その回答

制度のことを調べれば調べるほど、細かい疑問が次々と湧いてくるものです。ここでは、高校無償化の所得制限に関して、保護者の方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。いざという時に慌てないよう、細かい点も確認しておきましょう。
Q. 離婚や再婚をした場合、所得判定はどうなりますか?
A. 所得判定の対象となるのは、原則として生徒の「親権者」全員です。
- 離婚している場合: 親権を持つ親(ひとり親)の所得のみで判定します。
- 離婚はしていないが別居中の場合: 親権者は両親のままなので、二人の所得を合算して判定する必要があります。
- 再婚している場合: 新しい親が生徒と養子縁組をしていれば、その方も親権者として所得判定の対象に含まれます。
ご家庭の状況によって判定対象が変わるため、注意が必要です。
Q. もし子どもが留年したら支援は継続されるのでしょうか?
A. いいえ、原則として支援は継続されません。就学支援金の支給期間には、全日制高校で通算36か月(3年間)という上限が定められています。
そのため、留年などによって在学期間が36か月を超えた場合、4年目以降は支援の対象外となってしまいます。定時制や通信制の場合は上限が48か月となりますが、いずれにせよ支給期間に限りがあることを覚えておく必要があります。
Q. 申請手続きはいつ、どのように行えばよいですか?
A. 申請は、自動的に行われるものではなく、保護者による手続きが必須です。
- 申請時期: 主に高校入学後の4月頃と、毎年の資格更新時期である6月~7月頃の年2回です。入学前に手続きすることはできません。
- 申請方法: 在籍している高校を通じて行います。近年は、オンライン申請システム「e-Shien」を利用するのが一般的です。
学校から配布される案内に注意し、指定された期間内に必ず手続きを完了させましょう。もし忘れてしまうと、その期間の支援が受けられなくなってしまいます。
不安を安心に。制度を賢く利用し、子どもの未来を応援しよう

ここまで長い道のりでしたが、お読みいただきありがとうございます。高校無償化の所得制限が「おかしい」と感じる理由から、具体的な対策、そして制度の未来について見てきました。複雑な制度に振り回され、不安や不満を感じることも多いかもしれません。
しかし、大切なのはその一つ一つの情報を、これからの未来のためにどう活かしていくかです。
所得制限の壁に悩む保護者の皆様へ伝えたいメッセージ
所得制限の壁を前に、「私たちの努力は報われないのか」と無力感を覚えてしまうこともあるでしょう。そのお気持ちは、痛いほどよく分かります。
でも、どうか忘れないでください。制度は変わり始めています。声を上げ、疑問を持ち続けた多くの家庭の思いが、国を動かしつつあるのです。2025年度からの変化は、その大きな証です。
今はまだ過渡期かもしれませんが、正しい知識を持つことが、ご家庭の家計を守り、お子様の選択肢を広げるための最も強力な武器になります。どうか、諦めずに情報を集め、賢く制度と向き合っていきましょう。
成績だけじゃない、その子らしい多様な学びの道を見つけよう
最後に、これだけはお伝えしたいと思います。所得制限の問題も、教育費の悩みも、すべては「子どもに一番良い道を歩んでほしい」という親の願いから来ています。
私の経験から言えるのは、その「良い道」は、決して一つではないということです。偏差値の高い学校へ行くことだけが成功ではありません。子どもが自分らしく、笑顔でいられる場所を見つけること、それこそが何よりも大切だと、私は信じています。
制度の壁に悩んだ時こそ、一度立ち止まって、お子様自身が本当に望むものは何かを、親子で話し合ってみてはいかがでしょうか。その道を全力でサポートすることこそが、私たち親にできる最大のことなのだと思います。
このサイトでは、私自身が経験してきたからこそ分かる、教育費の課題やお子様の個性に合わせた多様な学びのヒントも発信しています。ぜひ他の記事も参考に、ご家庭に合った道を見つける手助けとしてください。