中学3年生のお子様が希望の私立高校をのびのびと目指せるよう、家計の不安を少しでも解消したい。
そんなお気持ちで私立高校の無償化について、上限額や条件を調べている方も多いのではないでしょうか。この記事では、制度の複雑な部分を一つひとつ丁寧に解きほぐし、ご家庭でできる具体的な対策まで、一緒に確認していきます。
【最初にチェック!】国の就学支援金制度(私立高校無償化)は、世帯年収や家族構成によって支援額が変わります。まずは、ご自身の世帯がどの区分に当てはまるか、下の表で大まかな目安を確認してみましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
年収目安(最大支援) | 約590万円未満の世帯 |
支援上限額(最大支援) | 年額 396,000円 |
年収目安(基礎支援) | 約910万円未満の世帯 |
支援上限額(基礎支援) | 年額 118,800円 |
判定のポイント | 判定は世帯年収そのものではなく、住民税の「課税標準額」を基にした計算式で決まります。 |
【2025年最新】私立高校無償化の上限額と制度のキホン

中3の息子を持つ我が家も対象?年収の壁に悩む保護者の方へ
中学3年生のお子様との三者面談が近づくにつれ、具体的な志望校選びと、それに伴う教育費の計画が現実的な課題としてのしかかってきますよね。特に、お子様が校風を気に入って「この私立高校に行きたい」と話してくれた時、その気持ちを応援したい反面、公立高校との学費の差に頭を悩ませるご家庭は少なくありません。
「うちの世帯年収で、果たして無償化の対象になるのだろうか?」「もし対象外だったら、どうやって費用を捻出しよう…」そのお気持ち、痛いほどよく分かります。大丈夫です。この制度は、知っているかどうかで手厚さが大きく変わる仕組みになっています。まずは一緒に、制度の基本を正確に理解するところから始めましょう。
ALTテキスト: 私立高校の授業料無償化(就学支援金)の対象かどうかを判定する上限額の確認フローを示した図解。
まずは結論!国の支援は「年収目安910万円未満」が大きな分岐点
「授業料無償化」と聞いてまず押さえておきたいのが、国の「高等学校等就学支援金制度」です。この制度は、保護者の所得に応じて、2段階の支援が用意されているのが大きな特徴です。
ご家庭がどちらの支援を受けられるかは、世帯年収が約910万円未満であるかどうかが大きな分かれ道となります。
- 第1の壁:年収目安 約910万円
- この基準未満の世帯は、公立高校の授業料に相当する年額118,800円(月額9,900円)の基礎的な支援が受けられます。
- 第2の壁:年収目安 約590万円
- この基準未満の世帯は、支援が大幅に加算され、私立高校の平均授業料をカバーする年額396,000円(月額33,000円)が上限として支給されます。
2025年度からは年収910万円以上の世帯も年額118,800円の支援(高校生等臨時支援金)が受けられるようになり、支援の裾野は広がりました。しかし、手厚い支援を受けるためには、やはりこの「年収の壁」を意識することが大切です。
(参照:文部科学省「高等学校等就学支援金制度」)
支援額が決まる「算定基準額」の具体的な計算方法を解説
ここで最も重要なポイントは、「年収目安」はあくまで目安であり、実際の判定は世帯年収そのものでは行われないという点です。判定には、お住まいの市区町村が計算する住民税の情報を使った、以下の計算式が用いられます。
【算定基準額の計算式】(市町村民税の課税標準額 × 6%) - 市町村民税の調整控除の額
この計算式で出た「算定基準額」を、国の定める基準値と比較して支援額が最終的に決定されるのです。
算定基準額 | 支援上限額(年額) |
---|---|
154,500円未満 | 396,000円 |
154,500円以上 304,200円未満 | 118,800円 |
「課税標準額」や「調整控除」といった言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、ご安心ください。要するに「税金を計算する元となる、調整後の所得」とイメージすれば大丈夫です。これらの金額は、毎年6月頃にご自宅に届く「住民税決定通知書」を見れば、誰でも簡単に確認できます。詳しい確認方法は、後の章で丁寧にご説明しますね。
対象は授業料のみ!入学金など「授業料以外」の費用も知っておこう
「授業料無償化」という言葉から、つい学費がすべてゼロになるようなイメージを持ってしまいがちですが、支援の対象はあくまで「授業料」に限定されています。
支援金は、いわば「お弁当の白ごはん」代のようなもの。美味しいお惣菜やおかず(入学金や制服代)は別に用意してあげる必要がある、と考えると分かりやすいかもしれません。文部科学省の調査によると、授業料以外の費用も年間で数十万円にのぼることが分かります。
- 入学金:平均20〜25万円程度
- 施設設備費:学校により数万〜十数万円
- その他:制服代、教科書代、教材費、修学旅行の積立金、PTA会費、部活動費など、年間で約30万円以上かかる場合も。
(参照:文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」)
特に初年度は入学金という大きな出費がありますから、授業料の支援があったとしても、ある程度のまとまった資金計画を立てておくことが不可欠です。
「うちの年収だと対象外?」年収の壁をめぐるリアルな悩み
年収700万円台、共働き家庭のリアルな判定シミュレーション
「年収目安590万円や910万円と聞いても、うちがどっちに当てはまるのかピンとこない…」と感じる方は多いはずです。特に、世帯年収700万円台のご家庭は、支援の境界線上に位置することが多く、判定がどうなるか気になりますよね。
ここでは、ペルソナである佐藤さんと同じ「世帯年収700万円(夫500万、妻200万)、中学生の子が1人」というモデルケースで、支援額がどうなるかシミュレーションしてみましょう。あくまで一例ですが、このように家庭の状況によって変わるのが分かりますね。
項目 | 夫 | 妻 | 合計 |
---|---|---|---|
給与収入 | 5,000,000円 | 2,000,000円 | 7,000,000円 |
給与所得控除 | 1,440,000円 | 680,000円 | - |
所得控除(仮) | 1,000,000円 | 480,000円 | - |
課税標準額 | 2,560,000円 | 840,000円 | 3,400,000円 |
調整控除(仮) | 2,500円 | 2,500円 | 5,000円 |
この課税標準額と調整控除を、先ほどの計算式に当てはめてみます。
- 算定基準額の計算
(3,400,000円 × 6%) - 5,000円 = 199,000円
この199,000円という算定基準額は、国の基準である「154,500円以上 304,200円未満」に該当します。したがって、このモデルケースの場合、受けられる支援は年額118,800円となる可能性が高いと分かります。
同じ年収でも支給額が違う?「不公平」と感じる制度の仕組み
シミュレーションを見て、「同じくらいの年収なのに、どうしてあの家は満額もらえるの?」と、少し不公平に感じてしまうことがあるかもしれません。その理由は、判定基準が年収そのものではなく、各家庭の「所得控除」の額によって大きく変わるからです。
例えば、以下のような状況のご家庭は、同じ年収でも課税標準額が低くなる(=支援が手厚くなる)傾向があります。
- 扶養している家族(大学生の子や親など)の数が多い
- 生命保険や地震保険に加入している
- iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している
- 医療費が多くかかった年である
このように、家庭ごとの状況をきめ細かく反映して支援額が決まるため、単純な年収だけでは判断できない、少し複雑な仕組みになっているのです。
所得判定のカギ!住民税決定通知書で見るべきはココ
ご自身の正確な状況を知るために、何より確実なのが「住民税決定通知書」(または課税証明書)を確認することです。会社員の方であれば、毎年5月〜6月頃に勤務先から配布される横長の書類ですね。
お手元に書類があれば、以下の2つの項目を探してみてください。この数字さえ分かれば、ご家庭の正確な算定基準額を計算できます。
- 確認する項目
- 所得割の「課税標準額(課税所得額)」:保護者2人分を合산します。
- 「調整控除」:これも保護者2人分を合算します。
もし書類が見当たらない場合は、お住まいの市区町村役場で「課税証明書」を発行してもらうことで同じ情報を確認できますので、ご安心ください。
ふるさと納税は無関係?判定に影響する控除・しない控除
家計を管理する上で、「ふるさと納税」をされている方も多いかと思います。ですが、ふるさと納税は、就学支援金の所得判定には残念ながら全く影響しません。
これは、税金の仕組みの違いによるものです。
控除の種類 | 概要 | 就学支援金への影響 | 具体例 |
---|---|---|---|
所得控除 | 所得から差し引くもの。課税所得そのものを減らす。 | 影響あり(有利になる) | iDeCo、生命保険料控除、医療費控除 |
税額控除 | 計算された税金から直接差し引くもの。課税所得は変わらない。 | 影響なし | ふるさと納税、住宅ローン控除 |
つまり、就学支援金の判定上有利になるのは、判定の元となる「課税標準額」を直接下げてくれる「所得控除」の方です。この違いが、次の章で解説する「打ち手」に大きく関わってきます。
上限額を超えても諦めない!家庭でできる3つの打ち手
1. iDeCo活用で課税所得を減らす節税テクニック
シミュレーションの結果、もしご家庭の算定基準額が「年額396,000円」の支援を受けられる基準(154,500円)を少しだけ超えてしまいそうな場合でも、諦めるのはまだ早いですよ。iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用が、とても有効な手段になるかもしれません。
iDeCoの掛金は、全額が「所得控除」の対象。これは、就学支援金の判定基準となる「課税標準額」を直接引き下げる効果があることを意味します。
- iDeCo活用のメリット
- 支援区分のランクアップ:例えば、会社員の方が月々2万円(年間24万円)をiDeCoに拠出すると、課税標準額が24万円下がります。これにより、支援区分が変わり、支援金が年間で約28万円増える可能性があります。
- 将来の資産形成:拠出した掛金は、もちろん将来の年金資産として着実に積み立てられます。
- 所得税・住民税の軽減:iDeCoの掛金に応じて、所得税や住民税も安くなる節税効果があります。
老後の資金を準備しながら、目先の教育費負担も軽減できる。これは、いわば家計の作戦会議。少し先の未来への準備が、今この瞬間の大きな助けになる、心強い方法です。
2. 自治体別「上乗せ補助」を比較!お住まいの地域は手厚い?
国の制度とは別に、全国の各都道府県が独自に設けている「上乗せ補助」の存在も見逃せません。実は、この自治体独自の支援が非常に手厚く、お住まいの地域によっては、国の所得制限を超えても授業料が実質無償になるケースがあるのです。
特に首都圏では、その差が顕著です。
自治体 | 制度の大きな特徴 |
---|---|
東京都 | 所得制限を撤廃。都内私立高校の平均授業料(約48.4万円)まで支援。 |
神奈川県 | 年収目安約750万円未満まで支援を拡大。入学金の補助も手厚い。 |
埼玉県 | 年収目安約720万円未満まで支援を拡大。授業料に加え、施設費への補助もある。 |
千葉県 | 年収目安約640万円未満で授業料が全額補助になるなど、段階的な支援。 |
このように、居住地によって受けられる恩恵が大きく異なります。まずは「[お住まいの都道府県名] 私立高校 授業料 補助」といったキーワードで検索し、ご自身の地域の制度を必ず確認してみてください。
3. 申請はいつから?年2回のチャンスを逃さない手続きの流れ
就学支援金は、自動的に給付されるものではなく、保護者による申請が必須です。申請のタイミングは、学年によって主に2回ありますので、忘れないようにしたいですね。
- 新高校1年生の申請スケジュール
- 4月の申請(暫定):高校入学後すぐに行います。この時点では、前年度の所得情報で審査され、4月〜6月分の支給が決まります。
- 7月の申請(本認定):全学年が対象です。最新の所得情報で再度審査され、7月〜翌年6月分までの支給が決まります。
- 高校2・3年生の申請スケジュール
- 7月の申請:毎年7月頃に、最新の所得情報でその年度の支給額を申請します。
申請は、学校から配布される案内に従い、オンラインシステム「e-Shien」で行うのが基本です。手続きの時期が来たら、学校からの連絡を見逃さないように注意したいポイントです。
制度の疑問を解消するよくある質問(FAQ)
Q1. なぜ「ずるい」「不公平」と感じる人がいるの?
所得が基準をわずかに上回るだけで支援額が大きく変わる「崖」のような制度設計や、東京都のように所得制限なく手厚い支援を行う自治体とそうでない地域との間に生まれる「地域格差」が、不公平感の主な原因となっています。制度の恩恵を受けにくい中間層の方々が、負担感を感じやすい構造になっているのが実情です。
Q2. 制度はいつから始まり、今後どう変わる可能性がありますか?
この制度は2010年に始まり、2020年4月に私立高校への支援が大幅に拡充されました。さらに2026年度からは、私立高校への支援上限額が全国平均授業料相当の45万7,000円に引き上げられ、所得制限も撤廃される方向で議論が進んでいます。今後、さらに支援が手厚くなる可能性があるため、最新情報に注目しておくと良いでしょう。
Q3. 授業料以外を支援する「高校生等奨学給付金」という制度について
はい、授業料以外の教育費(教科書費、教材費、学用品費など)の負担を軽減するため、「高校生等奨学給付金」という返済不要の制度があります。こちらは、主に住民税非課税世帯など、特に所得の低い世帯を対象とした支援です。お住まいの都道府県が窓口となりますので、該当する可能性のある方は一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。
Q4. 離婚や再婚をした場合の所得の計算方法を教えて
所得判定は、原則として生徒の「親権者」の所得を合算して行います。例えば、離婚して親権者が母親のみの場合、母親の所得だけで判断されます。もし再婚して養子縁組をした場合は、新しい父親と母親の所得を合算することになります。ご家庭の状況によって判断が異なるため、不明な点は学校や都道府県の担当窓口に相談するのが確実です。
お子様の進路選択という大切な時期、お金の心配が少しでも軽くなれば、より前向きな話し合いができますよね。まずは、お手元に昨年度の「住民税決定通知書」をご準備いただき、ご家庭の状況を正確に把握することから始めてみませんか。
まとめ:正しい情報で不安を解消し、お子様の未来を応援しよう

偏差値だけが全てじゃない、多様な学びの道を支える
私自身も、2人の子育てを通じて、成績を伸ばすための道のりと、不登校を経験した子が自分らしい道を見つける道のり、その両方を経験してきました。偏差値や学歴という一つの物差しだけが、子どもの幸せの全てではないと、心から痛感しています。
お子様がどの道を選んだとしても、親としてできるのは、その選択を信じ、全力でサポートすることだけです。そのためにも、こうした公的な支援制度を正しく理解し、家計の選択肢を広げておくことは、お子様にとっても、そして保護者の方自身にとっても、大きな大きな安心材料になります。
親ができる最善のサポートは、まず制度を正確に知ること
ここまで、私立高校の授業料支援制度について、上限額の仕組みから具体的な対策まで詳しく見てきました。一見すると複雑に感じる制度ですが、一つひとつのポイントを押さえれば、決して難しいものではありません。
この記事が、あなたの抱える不安を少しでも「安心」に変え、お子様の希望を力強く後押しするための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。